放射温度計とは
放射温度計は、物体から放出される赤外線エネルギーを検知して、非接触で表面温度を測定する温度計です。物体はその表面から常に赤外線を放射しており、この赤外線の量によって物体の温度が決まります。放射温度計はこの原理を利用して、物体とセンサーを接触させることなく、瞬時に温度を測定することができます。
赤外線放射温度計、赤外線温度計とも呼ばれるこの測定機器は、現代の産業分野から日常生活まで、幅広い場面で活用されています。
放射温度計の基本原理
放射温度計の動作原理は、物体が放射するエネルギーの強度を測定することに基づいています。具体的には、物体から放出される赤外線をレンズで集光し、サーモパイルと呼ばれる検出素子に導きます。
サーモパイルは、物体から放出される赤外線を吸収して暖められると、温度に応じた電気信号を生じる検出素子です。集光された赤外線が温接点に当たると、温接点のみが加熱されます。この時、ゼーベック効果により温接点と冷接点との間に電圧差が生じ、この電圧差から温度を測定することが可能になります。
測定された赤外線のデータは、基準温度や放射率をもとに温度に換算され、ディスプレイに表示される仕組みです。放射温度計は一般的に8~14μmの赤外線領域のエネルギー量を測定して温度に換算しています。
放射温度計の特徴と利点
非接触測定が可能
放射温度計の最大の特徴は、物体に触れることなく温度を測定できることです。この非接触測定により、以下のような利点が生まれます。
高温の物体を測定する場合、センサーの温度上昇がないため耐久性が高く、消耗品がありません。また、測定対象に触れないため、対象物の表面温度が変化することもありません。これは特に熱容量の小さい物体や、表面が傷つきやすい物体の測定に有効です。
高速な温度測定
放射温度計は赤外線放射を温度測定に利用するため、従来の測温抵抗体や熱電対と比べて応答速度が非常に早いという特徴があります。1秒もかからずに温度を検出でき、サンプリング速度も非常に速いため、昇温時間が速いワークや移動・回転しているワークでも問題なく温度測定が可能です。
多様な物体の測定に対応
放射温度計は、動いている物体の温度測定が可能です。回転しているタイヤや、移動する製品など、接触式では測定が難しい対象物でも測定できます。また、熱容量の小さい物体、熱伝導率の小さい物体、微小面積の物体など、従来の温度計では測定が困難だった物体の温度測定も可能にします。
放射温度計の仕組みと放射率
放射温度計を正確に使用するためには、放射率の理解が重要です。放射率とは、物体がどの程度の赤外線を放射するかを示す値で、0から1.0の間の値で表されます。
完全放射体(黒体)はそこに入射する全てのエネルギーを吸収し、その温度に対応したエネルギーを熱放射します。放射温度計は完全放射体の放射率を1.0として校正されており、実際の物体測定では放射率を予め設定し、それによって補正しています。
放射率は物体の種類によって異なり、同じ物体でも表面の状態によって変わります。そのため、放射温度計で使用する際には、測定対象物の放射率を正しく設定することが、高精度な測定を実現するための必須条件となります。
多くの放射温度計には放射率自動補正機能が搭載されており、接触式温度計が示している温度を放射温度計側に入力すると、自動で放射率を設定してくれる機能があります。
放射温度計のデメリットと注意点
放射温度計には多くの利点がある一方で、いくつかの制限があります。
接触式の温度計に比べると、放射温度計の構造は複雑であり、高価なものが多い傾向にあります。また、放射率などの設定が必要となるため、使用者が基本的な知識を持つ必要があります。
さらに、放射温度計は物体の内部温度や気体の温度を測定することができません。測定できるのは物体の表面温度のみです。このため、内部温度を知りたい場合や気体の温度を測定したい場合には、他の温度計を使用する必要があります。
放射温度計の種類と用途
ハンディタイプの放射温度計
ハンディタイプの放射温度計は、持ち運びが容易で、様々な場所での測定に適しています。工場の現場での点検、研究開発での測定、日常的なメンテナンス作業など、柔軟に対応できるのが特徴です。
このタイプは、出荷前の性能確認や研究開発に活用されます。瞬時に測定でき、効率の良い試験が可能になるため、生産性の向上に貢献します。
設置型の放射温度計
設置型の放射温度計は、連続的な温度測定ができるため、長期的な温度変動の監視や分析に最適です。アナログ信号が出力されるため、データロガーなどと接続して温度データを記録・管理できます。
アラーム機能があるモデルも多く、生産設備の制御に活用できます。人が立ち入れない高温雰囲気や危険な場所でも使用可能であり、管理・制御・トレーサビリティなどに活用される重要な機器です。
放射温度計の実用的な応用例
自動車産業での活用
自動車のボディに触れることなく、温度の測定が可能です。試験中の温度変化を記録する際に、放射温度計による非接触測定で、回転していても測定できます。応答速度も速いため、一瞬の温度変化も見逃しません。
電子機器の品質管理
通電時の各部位を測定し、不良部品などで発生する異常発熱をチェックできます。スポットタイプの放射温度計なら、微少な電子部品でも測定可能です。放射温度計は面倒なセッティングなしで、非接触で素早く測定が可能なため、効率的な品質管理が実現します。
医療分野での応用
耳式体温計のように、耳の内部から出る熱エネルギーをとらえ、非接触で温度を測っています。これは放射温度計の原理を応用した身近な例です。
感染症スクリーニング
放射温度計は非接触で温度測定できて感電の心配もなく、簡単にスクリーニングすることが可能です。発熱している人を素早く特定できるため、公共の場での健康管理に活用されています。
放射温度計の選び方のポイント
放射温度計を選ぶ際には、いくつかの重要なポイントがあります。
測定温度範囲は、対象物の温度に合わせて選択する必要があります。一般的な放射温度計は0~1600℃の範囲で測定可能なモデルが多くあります。
精度も重要な選択基準です。多くの放射温度計は±1.0%程度の精度を持っていますが、機種やメーカーによって異なるため、用途に応じて適切なものを選ぶ必要があります。
一部の放射温度計には、焦点調整機能が搭載されています。これにより、測定距離が変わっても精度を保つことができるため、様々な環境での使用に対応できます。
また、放射率設定機能の使いやすさも重要です。自動補正機能があるモデルを選ぶことで、より簡単に正確な測定が可能になります。
放射温度計の市場と製品
放射温度計は、産業分野に向けて設計された様々な製品が市場に存在します。大手メーカーから中小メーカーまで、多くの企業が高品質な放射温度計を提供しています。
オンラインショッピングプラットフォームでは、ハンディタイプから設置型まで、様々な放射温度計が販売されており、用途や予算に応じて選択することができます。初心者向けのシンプルなモデルから、専門家向けの高機能モデルまで、幅広い選択肢が用意されています。
購入前には、製品の仕様、精度、機能、価格などを比較検討することが重要です。また、ユーザーレビューを参考にすることで、実際の使用感や信頼性を確認することができます。
放射温度計の保守とメンテナンス
放射温度計を長期間にわたって正確に使用するためには、適切な保守とメンテナンスが必要です。
レンズの清掃は定期的に行う必要があります。レンズに汚れやほこりが付着すると、測定精度が低下する可能性があります。柔らかい布を使用して、丁寧に清掃することが重要です。
また、放射温度計の校正も定期的に行うことが推奨されます。校正により、測定精度を確認し、必要に応じて調整することができます。
保管時には、高温や高湿度の環境を避け、適切な温度と湿度の環境に保管することが重要です。これにより、放射温度計の寿命を延ばし、常に最適な性能を維持することができます。
放射温度計と他の温度計の比較
温度計には様々な種類があり、それぞれに特徴があります。
熱電対は、異なる金属の両端に温度を与えると電圧が発生する原理を利用しています。測定温度範囲は0~1100℃で、精度は±1.0℃(クラス1)です。接触式であるため、物体に直接接触させて測定する必要があります。
放射温度計は、放射エネルギーが絶対温度の4乗に比例する法則によって動作します。測定温度範囲は0~1600℃で、精度は±1.0%です。非接触で測定できるため、高温物体や移動する物体の測定に適しています。
それぞれの温度計には利点と制限があり、測定対象や用途に応じて最適なものを選択することが重要です。
放射温度計の今後の展開
放射温度計の技術は継続的に進化しており、より高精度で使いやすい製品が開発されています。
デジタル化の進展により、測定データをスマートフォンやコンピュータと連携させることができるようになりました。これにより、リアルタイムでのデータ管理や分析が可能になり、より効率的な温度管理が実現しています。
また、AI技術の活用により、放射率の自動判定や異常検知などの機能が強化されています。これらの技術革新により、放射温度計はさらに利便性が高まり、より多くの分野での活用が期待されています。
放射温度計の安全性と信頼性
放射温度計は、非接触で測定できるため、安全性が高い測定機器です。高温の物体を測定する場合でも、ユーザーが火傷する危険性がありません。
また、測定対象物に接触しないため、対象物を汚染することもなく、医療や食品産業などの清潔さが求められる分野でも安心して使用できます。
信頼性の面では、多くの放射温度計が国際的な品質基準に準拠して製造されており、高い精度と耐久性が保証されています。定期的なメンテナンスと校正により、長期間にわたって信頼性の高い測定が可能です。
放射温度計の学習と習熟
放射温度計を効果的に使用するためには、基本的な知識と習熟が必要です。
特に重要なのは、放射率の理解です。異なる物体や表面状態では放射率が異なるため、正確な測定のためには適切な放射率設定が必須です。多くのメーカーは、製品に付属するマニュアルや、オンラインの学習資料を提供しており、これらを活用することで習熟を進めることができます。
また、実際の使用経験を通じて、様々な物体の測定方法や注意点を学ぶことも重要です。初めは簡単な物体から始めて、徐々に複雑な測定に挑戦することで、スキルを向上させることができます。
まとめ
放射温度計は、物体から放出される赤外線エネルギーを検知して、非接触で表面温度を測定する優れた測定機器です。高速な測定、非接触での測定、多様な物体への対応など、多くの利点を持つこの機器は、産業分野から日常生活まで、幅広い場面で活用されています。正確な測定のためには、放射率の理解と適切な設定が重要であり、定期的なメンテナンスと校正により、長期間にわたって信頼性の高い測定が可能です。
非接触で測れる!放射温度計のすべてをまとめました
放射温度計は、現代の温度測定技術において欠かせない機器です。その非接触測定の特性により、従来の温度計では測定が困難だった高温物体や移動する物体の温度を、安全かつ迅速に測定することができます。赤外線の原理を利用したこの技術は、自動車産業、電子機器製造、医療分野など、様々な業界で重要な役割を果たしています。放射温度計を正しく理解し、適切に使用することで、より効率的で信頼性の高い温度管理が実現し、製品品質の向上や安全性の確保に貢献します。


